ワークショップの報告

ワークショップの報告
複雑系ゆらぎデータの分析と制御II:超多自由度非定常系へのアプローチ」を2012年12月7日(金)に明治大学駿河台キャンパスにて開催しました。内容を私なりにまとめさせていただきました(以下、敬称は省略させていただきます)。
「数学・数理科学と他分野・産業との連携研究ワークショップについて」
宮澤憲弘(文部科学省):文部科学省が数学や数理科学の研究を推進する背景などの説明をしていただきました。
ビッグデータ解析の問題点:ベキ分布・非定常・超多自由度」
高安秀樹(明治大・ソニーCSL):多種多様なデータの集合であるビッグデータを解析するとき、最も基本的なことは変数間の相関を検出することですが、通常よく使われる相関係数は平均値と標準偏差に基づいているため、正規分布に近い変動をするデータ以外には適しません。また、ビッグデータ解析では、変化点を素早く求めるような必要も多く、その場合には少数のサンプルデータから無数にある可能性の変数との因果関係を検出するという難題に挑まなければなりません。これらの問題に対する処方箋を紹介し、さらに、偽相関を排除する方法に関しても解説しました。
「400万超の企業間取引データをどのように活用すべきか?」 
北島聡(帝国データバンク):海外での企業の信用評価は「株価が全てを織り込んでいる」という信念に基づき単独の企業の業績のみで判断することが多いが、日本では「友人を見ればその人がわかる」という考え方から企業間の取引関係を丁寧に調べています。膨大な量の企業間の取引データをどのような狙いでどのように集め、どのようにビジネスにつなげているのかに関して、いろいろな逸話も盛り込んでお話しいただきました。
集団知はいつ間違えるのか?」   
守真太郎(北里大):専門的な知識や判断力を持たない多数の集団はどのようにすれば正解を導くことができるのか、どのような場合には間違えた判断をするのか、という問題に対する答えは、民主的にものごとを決めていく私達の社会がうまく機能するために基盤となるはずです。人を集めて課題に答えさせるような実験を通して、どのような場合に多数の集団が間違えるのかを解明しようとしている研究の紹介をしていただきました。
「ネット上での311に関連したうわさの伝播」
佐野幸恵(日大):ブログやツイッターは、沢山の人が思いのままを自発的に文章に残す貴重なビッグデータで、最近、解析手法も洗練されてきています。ここでは、311の大震災に関連して発生したデマに焦点を絞り、その広がり方やデマの修正・収束過程をデータに基づいて分析した結果が報告されました。人々の不安な気持ちや何かをしたいけどできない気持ちを特徴づけるようなキーワードが多い時にデマが広がりやすい傾向があることや、利害の絡まない公的な機関からの情報発信がデマの収束に重要であることが指摘されました。
「渋滞の制御に向けて〜渋滞させない運転術とその実証〜」
友枝明保(明治大 / JST CREST):交通流の数理モデルに関するレビューをしていただき、また、最近の応用として、渋滞をなくすための運転方法に関しての報告がありました。渋滞を起こすと流れの総量が減るので、車間を十分にとり、前の車が一時停止してもひきつられて停止しないようにすることが渋滞解消に効果があることが示されました。
「社会のまるごとシミュレーションはいつごろ可能になるか?」 
伊藤伸泰(東大):現在のスーパーコンピュータよりも、さらに何桁かの性能向上が期待される次世代のスーパーコンピュータが実用化されるときには、私達が必要と思うような社会・経済のシミュレーションがかなり実現できるようになっているはずだ、という見通しを話していただきました。現在はまだ物質に関連した利用が中心のスーパーコンピュータですが、近い将来には、例えば、災害発生時にどのような対処をするのが最適かをコンピュータがいち早く答えを出してくれる、というような夢も実現させることが不可能ではない、ということでした。
ポスター発表では、2分間のショートトークと昼休みと休憩時間を利用して、次の方々が発表し、議論が盛り上がりました。(内容は省略させていただきます。)
「ゆらぎから検知するインフルエンザの流行変化」
 前野義晴(日本電気
リツイートによるツイッター上の情報拡散」
 川本達郎(東大)
「日本企業100万社の大規模データの解析とそれを用いた企業分類方法の研究」
 笠原章弘(東工大
「大規模企業間取引ネットワークで見られるパーコレーション相転移現象」
 河本弘和(東工大
「大規模企業データの解析とお金の輸送のモデル化」
 田村光太郎 (東工大)
合計40数名のワークショップでしたが、会場からの質問もしやすい規模で、密度の高い議論をすることができました。参加して下さった皆様ありがとうございました。