旧ブログの4月8日の記事とコメントです

2011年4月7日の日経新聞・経済教室に東日本大震災に関する記事を掲載してもらいました。(3度目の経済教室になります。最初は「バスケット型の企業通貨構想」、次は、「金融危機発生の原因と対策」でした。)
その記事で一番書きたかったのは、最後の一段落の部分のもっと具体的なプランでしたが、それは載せられませんでした。そこで、まず、このブログの中で、私の考えている震災の復興プランを紹介させていただきます。

まず、今、一番欠けているのは、被災者の全容を早急に情報収集することです。これを実現するために、次の方法を提案します。基本的な考え方は、国債の発行はできるだけ避ける、被災者には借金を負わせない、住民主体で重要な決定をする、などです。

1:日本銀行が、津波と火災で喪失した現金を補充するという名目で、生存している被災者全員に一律10万円を現金で配布する。
紛失した現金を補給する範囲であれば、インフレなどの心配はありません。このとき、氏名・住所・年齢・職業(これまでと、これからの希望、どこに住みたい、なにをしたい)・被災の様子・今後の希望を聞きとると同時に、2重に受け取るなどの不正を避けるため、指紋を電子的に登録してもらいます。(指紋登録を拒否する人には申し訳ありませんが、不正を避けきれないので現金の配布はしません。)仮に、該当者が100万人いるとしても、総額1000億円で、これは、日銀の地下金庫の中にある70兆円の現金のほんの一部を出すだけで済みます。指紋登録などの端末とデータサーバの経費、現金配布のための経費も100億円くらい用意すれば短期間ででできると思います。現金をもらえるという大きな動機づけがあるので、よほどの理由でもない人はほぼ全員を短期間で調査することができます。このデータベースを、昨年秋に実施した国勢調査のデータと突き合わせることによって、警察に届け出のない行方不明者なども明らかにできます。何より、何人の人が元の町に住むことを希望し、どれくらいの潜在的な労働力があるのかを把握できます。

2:市町村が被災地域の土地を所有から一括して購入し、更地を用意する。
安全で美観のある町を復興するには、大きな視野に基づいた町の設計が欠かせません。
関東大震災後の東京で行ったような強制的な土地の買い取りを実施することは復興の第一歩です。このときローンがあった人のローンも0とします。この時のお金は、一時的に国から前借するということでいいと思います。次のように証券を発行すれば民間のお金が集まり、すぐに返済できます。

3:復興プランの公募を行う。
被災地域は日々の生活をするだけで精いっぱいで、広い視野からの復興プランを考える余裕がないと思われます。上記の調査に基づいて、元々どのような町だったのか、今はどうなっているのか、今どのような職業を希望している労働人口がどれくらいあるのか、という情報をホームページでできるだけ詳細に公開し、それぞれの町の復興のためのグランドプランを公募します。グランドプランは、いわば、おおざっぱなプランで、例えば、海に近いところは公園にする、高層ビルの下層部分を商業エリアにし、上層にアパートを用意する、など今回と同じくらいの規模の地震津波が来ても安心して暮らせるような、それでいて、地域ごとの魅力を出せる夢を抱かせるようなものです。町によっては、漁業に特化してもいいし、観光に特化してもいいし、老後のケアを売りにするようなプランも想定されます。
このグランドプランの中から住民によって上位何個かのプランを選んでもらいます。そして、それらのプランを具体化するためにどれくらいのお金がかかるかを建設関係の企業に見積もりをしてもらいます。
このようなホームページを作り、維持管理して住民の意見を集約するにはそれなりの組織が必要です。ボランティアベース、あるいは、民間企業に市町村がお金を出す形で、あまり大きなお金を掛けずに実現できると思います。(この資金も国からの前借でいいと思います。)

4:復興プランの選定を行う。
上位のプランについて、より詳細化された設計図と見積もり金額、期待される復興までのスケジュール、資金繰りのめど、などに基づき、住民中心にプランを一つに決定してもらいます。住民会議を開き、意見を集約するにはある程度時間がかかると思いますが、皆さんに真剣に考えてもらいます。

5:復興プランに必要な金額を不動産証券の発行によって民間から集める。
リートとよばれている不動産証券を応用し、市町村単位のこの復興プランの不動産を原資として証券を発行します。この作業そのものは証券会社ができますが、復興のための特別の証券ですから、税の控除などの特典を付けるのがよいと思います。(仮に復興が失敗したときには、この投資は寄付になっていまうリスクがあるので、その分、利点を補う必要があります。)特に、導入したいのが、相続税の免除です。資産家の親が、復興のためという道義的な証券を子孫に残すことは十分に想定されます。日本国内の富裕層が貯めている数100兆円の貯蓄の1割でもここに流れてくれば、全体として数10兆円という十分な資金が用意できます。これを実現するためには、国会議員にこのプランを理解してもらい、特別な法律を制定してもらう必要があります。ある程度の期間はこの証券を保有しておいてもらわないと復興プランの実現に支障が生じると思われるので、例えば、5年間の転売を禁止するというようなルールもあった方がいいと思います。

6:復興プランを実施するか、やめるかを判断する。
復興プランが魅力的でない、実現可能性が低い、などと判断されたプランの場合には、証券の販売が完了しない可能性があります。その場合、縮小したプランで改めて実施するか、ご破算にして復興をあきらめるか、という重大な選択をする必要があります。ご破算になった場合は、住民には、個別や集団での疎開など、町を放棄する苦渋の選択をしていただかなければなりません。プランをやめることになった場合には、証券は一定の割合を出資者に返金します。一定の割合とは、例えば、8割で、残る2割は、疎開する住民への寄付とします。言いにくいことですが、住み続けることを希望する住民が少なく、労働力も乏しいようなケースでは、魅了的な復興プランを作ることが不可能な場合もありうると思います。そのような場合には、無理に復興プランを実施せず、安全な地域に疎開してもらうことが必要になると思います。大切なのは、そのような決定を上から決め付けるのではなく、できるかぎりの知恵をだしてベストを尽くした後で、住民に判断してもらうという点です。

7:復興プランを実施します。
建設業社に発注し、復興プランを実現します。常に進捗状況をホームページなどで報告し、証券の所有者には、住民の仕事が復活してきたら、その分量に応じて、何らかの配当をします。当初は、かまぼこの現物支給もありうるし、旅館の割引券でもいいと思います。復興に応じて、最終的には、現金を配当できるようにします。

8:数年後、証券の転売を自由にします。
復興プランが順調に進んでいれば、証券は購入した時よりも高値で売れるでしょうし、復興プランが不調の場合は、評価が下がると思います。後は、市場に任せることになるので、市町村はがんばって復興プランの評価が高くなるようにします。うまく行けば、証券を追加で発行するというようなことも可能になると思います。逆に、全く復興が進まなくなったら、証券の価値は0になってしまい、町は復興を放棄せざるを得なくなります。厳しいことですが、これを避けるためには、住民が責任を持ってプランを選択し、復興に取り組むことしかありません。

以上が、私が新聞に書きたかった内容です。

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maskawaさん 4月8日コメント
被災された方々に借金を背負わせないという考え方に賛同します.
そのために,民間からお金を集めるために不動産価値を復興プランで評価して証券化するというアイデアも大変おもしろいと思いました.
幾つか質問コメントさせてください.
・メディアのアンケートを見ると,避難された方々の中には,元の居住地に帰りたいと強く思っている方ももちろんいらっしゃいますが,元の場所には怖くて住めないと言われる方々も多いようです.
防災的な見地からは,日本の沿岸部は少しずつ高地にシフトすべきかもしれません.そうなれば,現在の土地を原資と出来なくなり,移住先の地主との交渉が必要になります.市町村と言われますが,その単位は非常に大事で,この決定は壁になりませんか?
・この震災に限らず,日本はこれまで地震で多くの被災者を出しています.その方々が受けた援助と整合的であるために,今回は規模が大きいので日銀を利用するというのは賛成です.
一律いくらというのでなく過去の例と整合的に決めるべきではないでしょうか?
・ここでの話とは少しそれるかもしれませんが,雇用の創出は急務です.産業セクターの再生は同時並行的に行わなければならないでしょう.
自力で立ち直れる場合はよいですが,設備をすべて失った水産加工業などの地場産業を幾つか束ねて持ち株会社し上場してはどうでしょうか?その中に復興事業自体を含めても良いかもしれません.
経営に詳しい方がお読みになったら意見をお伺い出来ればと思います.

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kazuBoston1961さん 4月10日コメント
金融に勤務しており、また不動産の証券化にも携わっているので5についてコメントしたいと思います。
税の免除は米国などでも行われているので気づく人もいますが、相続税についてまでは考えつきませんでした。
一案だと思います。
なお、日本の場合富裕層もお金を持っていますが、年金基金が不動産に全然投資をしていません。このため年金基金がお金を出しやすくする方法を考えるのもいいと思います。
また、一つ一つの案件を個人や年金基金の担当者が判断するのは無理なので、復興用不動産を専門に買い取るREIT不動産投資信託)を作り、そこが不動産を購入しその株や融資を個人投資家機関投資家が買うという方法も考えられると思います。