国家が発行する以外の通貨の形態

 通貨は国が発行するという常識は、実はそれほど長い歴史を持っているわけではない。例えば、江戸時代、通貨は各藩が発行し、また、有力な商人は地域で通用する通貨を発行していた。両替商は、このような複雑な通貨の交換を行うことで利益をあげていたわけだ。今の通貨、円が登場したのは、明治になってからで、円以外の通貨を使うことを禁止したため、日本の通貨=円、という構図ができあがった。しかし、最近、その概念は、幾つかの方向からゆらいできている。
 国が発行する通貨に対し、堂々と反旗を翻したのは地域通貨を発行した米国イサカ市である。国の政策は必ずしてもいつも正しいわけではなく、場合によってはインフレなどを起こすこともある。そのような時に、国が発行した通貨しかないと、インフレの波をそのままかぶってしまうことになるが、もし、地域通貨があれば、その通貨が流通する地域では、国の通貨とは独立した形で、経済活動を持続できるはずだ、という信念に基づいている。イサカ市で発行している通貨hourは、基本的に人が1時間働いたことに対する報酬の相場として定義されている。この通貨が脱税の手段として使われることを恐れた国は、使用禁止を訴えたが、裁判の結果、ドルとの交換レートを明示して、そのお金の流れに相当する税をきちんと納めること、という条件を満たせば、地域通貨を発行して流通してもかまわない、という判決がでた。これを受けて、全米には地域通貨を発行するところが数多く現れた。地域通貨は日本でも使っているところがあるようではあるが、あくまで小さな地域に限定されているようである。
 もう一つの最近の大きな流れは、企業が発行するポイントやマイレッジである。最近、ポイントやマイレッジの交換がかなりできるようになり、ものを買うこともできるので、これは事実上通貨と言える。昨日、電車に乗るための電子通貨システム、スイカパスモなどが2−3年後には全国で使えるようになるというニュースが流れていたが、これが実現すれば、電子通貨はますます流通が多くなることは確実だ。しかも、スイカパスモは顧客のロックイン効果を狙って、買い物をするとポイントが加算されるような仕組みなっているので、この電子通貨は、単に円を電子化したものではなく、運営する企業が通貨の発行量をコントロールできる通貨である。ポイントやマイレッジでの買い物に対してどのように課税されているのか、されていないのか、詳しくは知らないが(ご存知の方、教えて下さい)、その辺りのルールや通貨の発行量に対する制限や、万が一、運営している企業が倒産した時の処理方法など、おそらくまだまだ手薄になっている領域がかなりあると思われる。
 私が想定している企業通貨は、もし実現できれば、これらよりも大きな規模になる。というのは、国際的な企業の会計を丸ごと新しい通貨システムに乗せてしまおうという狙いなので、例えば、いきなり1年間で10兆円というような、国の予算規模から見ても無視できないようなサイズのお金の流れが想定される。企業連合を想定するなら、さらに、その数倍の規模になり、ちょっとした国家財政のレベルになる。
 バスケット型の複合通貨のひとつのメリットは、0から新しい通貨を発行するのではなく、既存の通貨の重みを付けた和として定義する点にある。つまり、例えば、0.4ドル+0.3ユーロ+35円をひとまとめにして、使うということであり、通貨の発行主体は、国である。既存の通貨を使うので、既存の通貨システムと敵対することもなく、複合通貨の発行主体の責任も、本当の通貨を発行する国ほどは重くない。あくまて、既存の外国為替市場の上に乗ったまま、ゆらぎを回避するようなシステムである。