税収を増やすならさらに相続税の改革を

 5月1日のブログのコメントに相続税の改正に関する話が上がりましたので、相続税に関して考えていることを書かせていただきます。
 相続がらみのドラマなどが多いせいかもしれませんが、日本にはなんとなく相続税は高いというイメージがあると思います。しかし、実際には最高税率70%の相続税がかかるケースは年に数件しかないそうで、年間90万人程度が亡くなる中で相続税が発生するのは5%程度、つまり、95%のケースでは非課税になっています。相続税として国に入ってくる金額も年間1.5兆円程度で、相続額の総計約30兆円の5%程度になっています。お金の流れの5%分に課税ということは、消費税とほぼ同等ということです。
 海外では、相続税は国によってまちまちです。代々引き継がれる社会的な貧富の差が拡大することは社会の不満を大きくして革命などの不安定要因になることから、イギリスやフランスなどは富裕層をターゲットにした相続税を適用していますし、逆に、相続税を0にしてお金持ちを集める戦略をとるスイスやシンガポールのような国もあります。相続に関しては、宗教的な意味合いも含んだような人それぞれの価値観があり、また、国の歴史や世相も反映されるので、議論の立ち位置を決めるのも難しい問題です。
 国の財政が年々悪化している上に、さらに、震災や放射能の問題に関連して巨額のお金が必要になることから、国の税収を上げることは避けて通ることはできません。しかし、消費税などの安易な方法に頼っては、国全体のお金の流れが悪くなり、ますます経済全体を悪化させてしまいます。大切なことは、お金の流れを悪くしないような、むしろ、お金の流れを加速させるような課税を考えることです。(4月15日の記事の中では”電力料金に課税”を提案していますが、これは原発被害の補償と電力消費の抑制を目的とした提案です。)また、先にも書いたように、日本には1000兆円を越える個人の金融資産があり、それがどう流れるかに日本の未来がかかっていますから、税制は、この金融資産をターゲットにしたものをまず第一に考えるべきです。
 相続税は亡くなった人から子孫へのお金の流れ対する課税ですから、まず、ここに課税してもお金の流れが減ることはありません。懸念されるのは、相続税が高くなりすぎると相続税のかからない海外に資産を移動するようなお金持ちが多くなることです。日本で稼いで貯めたお金が海外に流出してしまうようでは、国が富むはずはないので、理想を言えば、お金持ちが日本に住み続けたいと思うようにもしておく必要があるわけです。これらを満たす解として、私が提案しているのは、昨日のコメントにも書いたように、お金(現金、預金、国債)には100%の課税、それ以外(土地、もの、社債や株式など)は非課税という方向性です。(ここで、100%と0%はわかりやすくするために極端に設定しています。現実には、もう少しマイルドな%にすべきだと思います。)
 そもそも、自分のものと思っている貨幣は国からの借り物です。本当に自分のものならお札に落書きをしたり、コインに加工をしても勝手なはずですが、そのようなことをすれば罰せられます。お金とは、国が発行している”自由な行動を担保する数値”であり、生きている間はそれを使うことを許されているもの、というように考えるわけです。そう考えると、死んだら国に返す、ということは非常に合理的です。
 ものには課税しないというルールは、お金持ちに日本に住み続けてもらうために有効だと考えます。土地や貴金属、芸術品、株式・社債などが相続税0であるならば、自分の老後のために必要な金額以上のお金は積極的にこれらのものを買うことに使用するはずです。特に、立派な家を建ててくれれば、その人や子孫は当面そこに住み続けるでしょうし、将来、そのような豪邸は観光資産にもなる可能性もあります。また、そうなれば、消費税やその他の既存の税収も増加します。多くの資産家は企業のオーナーですから、株式などの相続税を0にすることで、子孫に企業を相続させることもできるので、企業が海外にでていくことを防ぐこともできると考えます。
 このようなルール変更をすると、土地や貴金属や株の価格が上昇するのではないか、という心配があります。しかし、過去を振り返るとこれらの価格が上昇していた時期はいずれも景気が良かった時期であり、問題なのは、それが過剰に上がり過ぎたバブルになり破裂した場合です。後で売ろうと思って投機のためにものを買うのではなく、本当に所有し、子孫に継承するためにものを買うのであれば、バブルにはならないはずです。とは言っても投機的な動きは必ず発生するので、バブル警報のようなものは別途作っておく必要はあると思っています。また、土地は所有しているだけで毎年税金がかかりますから、見合うだけの収入のない人が広大な土地を所有し続けることはできないはずです。
 例えば、金融資産の10%程度、100兆円分がものを買うことに流れれば、単純な消費税だけでも5兆円が税として入り、実際には、そのお金の流れは乗数効果と言われる波及効果があるので、さらに上乗せがあるはずです。消費税で税金を絞りとるのではなく、喜んでお金を使ってもらって税収が増えることが期待できるので、北風と太陽の昔話で言えば、太陽の役割になるのではないかと期待します。既に、相続税の改正は進められているようですが、さらに加速して、新しい大きなお金の流れが生まれることを期待します。(復興資金としての相続税免除型の不動産証券のプラン(本ブログの最初で提案)も是非実現できるといいと思います。)