”宮崎哲弥のトーキング・ヘッズ”の収録

 昨日、スカパーやケーブルテレビで放送されている朝日ニューススターというCSデジタル放送の”宮崎哲弥トーキング・ヘッズ”という番組の収録がありました。放映は、今週6日金曜の夜9時から、”「想定外」と確率〜巨大災害、大恐慌の発生メカニズムを探る”というタイトルの予定です。4月7日の日経新聞の経済教室の記事を読んで、宮崎さんが「これはおもしろい」と取り上げることになったそうです。宮崎さんもアシスタントの田添菜穂子さんも、私の本「経済物理学の発見(光文社)」やこのブログを丁寧に読んでくださっていて、事前の打ち合わせも本番の収録も非常にスムースでした。前半はベキ分布に関する基本的なこと、後半は、震災復興の私案である不動産証券発行の方法に関する話題になりました。
 収録を通して感じたことですが、私自身がもうかれこれ30年近くずっと研究をしてきているベキ分布を一般の人に理解していただくには、まだまだわかりやすく説明するための道筋ができていないという印象を持ちました。今回の番組は先日用意したスライドを使って説明をしましたが、なんの予備知識もない人にどうすれば、すんなりと理解してもらえるか、に関しては全く別の入り口から入ることもできるので、今後、時間のあるときにどうすればわかりやすくなるかを、考えていこうと思います。
 特に、普通の人がひっかかると思うのが、平均値が意味をなさない、という点です。ひとつの大きなサンプルが入るだけで、平均値が桁違いに変わってしまう、ということは事例を通してわかっても、小学生の時からなじみのある平均値が意味を持たないと言われても、やはりピンとこないのではないかと思います。ベキ分布が扱いにくいのは、平均値だけでなく、中央値や最多値のような統計量もやはり意味を持たないという点です。中央値や最多値はどちらも数の多い最も小さな値に引っ張られてしまうので、桁違いに大きな値を取る特性が反映されません。
 もう少し専門的な立場に立てば、平均値や標準偏差に基づいて理論体系ができあがっている保険も、どのようにサンプリングしてどのようにこれらの統計量を見積もるか、という根本的な問題はおろそかになっています。最大値の分布の理論などある程度関連する基本的な数理の研究はありますが、相関を持って連動するような場合には適用できず、一方、現実の現象は、大変動の場合には強い相関を持つことが多いので、そこにも大きな壁があります。既存の保険の方法ではいずれ破綻することはわかっていても、まだそれに代わるものが用意できていないので、当面、使い続けるしかないわけです。ベキ分布の特性や連動する性質までを考慮した保険が考えられるか、それとも、保険の使用範囲を限定しておいて保険が使えない状況を別の方法で補うか、基礎研究が必要です。