イスラム金融に学ぶ住宅ローン

 ここ数年、私は、金利という簡単で便利なお金の流し方そのものが金融の世界に絶えず歪を発生し続けるマントル対流のような役割を担っていると考え、歪を発生させないような新しいお金の流し方ができないか、思案しています。金利コーランの中で明確に否定されているイスラム圏では、金利という名称は以前から使われてはいませんが、手数料という形で実質上、金利と同じ仕組みでお金の貸し借りをしているそうです。しかし、30年ほど前から、本当に金利を使わないようなお金の流し方を実践するイスラム金融が誕生し、規模はまだそれほど大きくはないものの発展しています。そのような中には、宗教色をなくせば、そのまま日本でも使えそうなヒントがいろいろとあります。
 例えば、住宅を購入する場合、次のような賃貸と購入の中間的な方法を提案します。例えば、マンションの場合、購入する人は販売会社に20年間毎月賃貸のように定額を払い続ける契約をします。賃貸と違うのは、所有権を一年に20分の1づつ移していき、最後には全ての権利が購入した人のものになり販売が終了するという点です。所有権が複雑になるディメリットはありますが、それを上回る次のようなメリットがあると考えます。
 購入する人は、大きな借金をする必要がありません。何千万円もの謝金をすることは普通の職業の人にとっては大きな不安要因ですし、特に、金利が高騰するかもしれないというリスクがあります。金利が固定されたローンを選べば金利変動のリスクはありませんが、金利が安定していた場合には返済額が大きくなるというリスクがあります。また、所有権が販売会社にもあるということは、不良住宅を掴まされるリスクがありません。賃貸と同じような形で定額を払い続けるわけですが、最終的には自分の住宅になるわけですから、いずれ出ていくことが決まっている賃貸の場合よりも大切に住むはずです。大きなリスクを負わずに家が買えるので、購買意欲は高まると思います。売り手側としては、賃貸の場合には入居者が入らないリスクがありますが、販売してあれば長期の安定した収入が見込めます。また、賃貸のときと違って古くなった時の建て替えを考える必要もありません。
 土地を買って家を建てる場合には、イスラム金融の場合には家を建てたい人が銀行と契約し、銀行がその人に代わって土地を買い、家を建てるお金を払い、当初は銀行が所有する家になります。その後は上記のマンションの場合と同様に、毎月決まった額を払い続けると所有権が連続的に移っていき、最終的には個人の所有物になるわけです。日本では、金融業が不動産業を兼ねることが法律で禁止されているようなので、法律を変えない限りは、そのままイスラム金融の方法を使うことはできません。そこで、不動産業が銀行に代わって土地と新築の家を購入する形にすれば、今の日本のルールでも実行可能だと思います。建売の住宅の場合も同様に、不動産業がまず家や土地を所有して、個人と長期の契約をすることによって同じようなお金の流れが実現できると考えます。
 問題は、所有権を少しづつ換えていくことのコストやリスクです。所有権の割合が変わると、それに伴って正式の書類を交わす必要と税金などの計算のやり直しなどの問題が発生します。また、引っ越すような場合など、途中で契約を変更する場合には、どういう対処をするのかを事前に決めて契約をしておく必要があります。引っ越しなどの中途解約の場合は、原則、所有権の割合に相当する金額を受けとれる権利があることになりますが、売り手側としては、中古の家を別に人に売らなければならなくなるので、そのコストやリスク分を差し引いた分の金額にということになります。その辺りを事前に契約で決めておく必要があるわけです。所有権の残っている不動産業が都合によって、中途で売り渡したい、というような状況も起こりえますので、そのような場合の対処についても考えておく必要があります。具体的には、別の不動産業社に買い取ってもらって同様の契約をし直すことになると思います。繰り上げ返済に相当するようなケースに関しても、やはり事前にどのようにすべきかを考えておく必要があります。
 いろいろと面倒なことが増えるのは確かですが、家を買って定住することを考えている個人にとっては、メリットが大きいし、また、安定収入が見込める不動産業にとってもメリットがあると思います。中途解約などのリスクを評価した上で、月々の支払い金額がどの程度になるのかを、計算してみる必要がありますが、おそらく、既存のローンの支払い額と家賃の支払額の中間的な値になるのではないかと思います。イスラム金融では既に実施できている方法ですから、やろうと思えば日本でもできるはずです。私は、リスクを嫌い、安定志向が強く、個人の所有にもこだわる日本人には、既存のローンや賃貸よりも適しているのではないかと考えています。思いきって実行してみようという不動産業社が現れるといいのですが。