イスラム金融に学ぶ住宅ローン パート2

 昨日の記事に対して、Yuta Kashinoさんより質問をいただきましたので、返事が長くなるので、改めてここで説明を加えます。
第一の質問は、「住宅ローンをノンリコースローンにすることによって購入者のリスクを減らしてインセンティブを高くできるのではないか」、というものです。
 ここでいうノンリコースローンとは、責任財産限定特約付ローンとよばれているもので、何らかの理由で返済が困難になったときに、生活を維持しながら払える限度額分だけを払えばよい、というようにピンチになった時にローンを軽減してもらえる約束付きのローンのことだと思います。これは確かに、住宅を購入しようという人にとっては非常にありがたい仕組みですから、是非とも導入してほしいと思います。課題は、ノンリコースにすることで貸し手のリスクは大きくなるので、その分どれくらいの金利の上乗せを必要とするかということと、どういう条件になったときに特約を有効にするかという判断基準、それと、多くの人が揃ってローンの軽減が必要となった場合に金融機関が持ちこたえられるかどうか、でしょう。
 住宅購入者の背中を押すという意味では、ノンリコースローンはいい制度だと思いますが、私が主張する所有権が少しづつ増えていくタイプの住宅ローンにはそれ以外のメリットがあります。例えば、今回の震災では、買ったばかりの住宅が被災して住めなくなったのに、ローンは残り、さらに、保険では十分な額が補償されない、というケースが多発していますが、私の提案する方法であれば、住めなくなった家を放棄すれば、それまでに払った金額分は戻りませんが、巨額のローンだけが残るということは起こりません。
 また、昨日の記事にも書いたように、長い年月販売者も所有権を持つことになるので、売ってしまえば終わりという現在の販売の仕組みとは異なり、支払いが完了するまで20年間くらいは責任を持たなければならないことになり、それだけ、長い間安心して住めるような住宅を建てなければならないという動機付けが強化されます。既存の方法では、販売でも賃貸でも、見掛けを良くして売る、あるいは、直ぐに入居してもらうことが評価基準になっており、評価が短期的な方向に向かいがちで、本当にいい住宅を作るのとは少し方向が違います。
 また、既存の住宅ローンでは、ローンを提供する金融機関は住宅の担保価値を見積もってローン額を推定するわけですが、金融機関そのものは不動産の売買をできないので、その評価のためのコストは余分にかかるし、不正確にもなりがちだという問題もあります。どの住宅ならいくらで売れるということは、実際に売買している企業が最もよくわかるはずですから、不動産を売買する企業が見積もるのが最良のはずです。他方、金融機関はメインバンクであれば、ローンを必要とする人の財務状況をある程度監視することができます。その人の過去の口座のお金の変動から金融面での信用度を評価することができるので、そのような信用の情報をビジネスの種に活用すべきです。例えば、一時的にローンを払えなくなったような人に(その人のリスクに応じた金利を付けて)お金を貸し出すことで住宅を手放さなくてもよくする、などです。
 私の想像する新しい仕組みでうまくお金を回せるのはある程度以上の大きな資産を持つ住宅販売会社です。そのような企業なら、月々入ってくる家賃のようなお金を主とした収入源として、会社全体としてあまり借金をしないで、従業員に給与を支払い、新たな住宅を作りつづけることができると思います。この仕組みなら途中に金融機関も不動産斡旋業も挟まないで済むので、余分な中間コストを浮かせることができるはずです。また、借金をしないでお金を回すことができるので、金利の変動などの外乱にも強いシステムになると期待できます。

 もう一つの質問は、「イスラム金融を導入すると金利の歪みが無くなるというロジックがわかりません。金利自体をなくすということでしょうか?しかし、所有権の分割移転する際に、予め「固定金利」的なプレミアムが乗ってきている気がしますが、それは誤りでしょうか?」です。
 おっしゃるように所有権を分割移転する際に「固定金利」的なプレミアムは乗ってきます。売り手の立場からみれば、買い手が100%約束通りに支払いを続ける保障はないわけですから、そのリスク分を上乗せすることは当然のことです。ここでのリスクは、買い手が中途で解約する場合や支払い能力がなくなる場合が想定されますが、いずれの場合でも、売り手は中古物件として転売する必要が生じますので、それにかかるコストを見積もってプレミアムとすることになります。中古物件としての価値があまり下がらなければプレミアムは安くて済みますが、価値が下落する物件なら上乗せ分は高くなります。長期間長持ちする住宅を建てていれば「固定金利」に相当する金額は低くなりますし、これは、市場での国債や銀行の金利とは別に決められる性質のものです。
 私が主張したいことは、これは、必要最小限の「金利」であり、通常の既存のシステムでは、それ以外に中間業者に相当する金融機関に「余分な金利」を払わなければならない点が問題です。いわば、住宅を中抜きの産地直送にすることによって、余分な「金利」を最小化できるのではないかと考えます。
 同様に、イスラム金融でも、お金の貸し借りをするからには、未来のリスクに対する情報を収集し分析するためのコストは必要とされますので、事実上金利と同じようなプレミアムは必要になります。これが全くないとお金の貸し借りが抑制され、お金の流れが悪くなります。しかし、既存の方法や常識にとらわれずにアイディアを出し、工夫をすれば、お金の流れを悪くしないで、余分なプレミアムをかなり減らすことができるのではないかと考えます。また、そのプレミアムは、市場の金利、のようにマクロ的に詳細を見ないで多数決で決めるのではなく、個別のケースで手間を掛けて丁寧に算出すべきものと思います(そこにはコストは掛かりますが、それは本来必要なものと考えます)。