イスラム金融に学ぶ預金の金利

 金利を前提としないイスラム金融を応用する住宅ローンの話を紹介しましたので、今回は預金の金利について議論します。
 人々の収入には予測できない変動があり、また、事業を起こすなどの場合にはまとまった大きなお金が必要になりますから、国の東西、宗教や時代によらずに、貨幣経済を実施している社会ではお金の貸し借りする金融業は不可欠です。そして、持っていれば減ることのないお金を、戻ってこないリスクを踏まえて人に貸し出すからには、返済額に上乗せ分を要求することもリスクへの対価として極めて自然なことです。
 イスラム金融の銀行では、貯金によって広く集めたお金を融資や投資で運用し、結果として得られた利益から銀行の運営に必要な経費を差し引いた分を、預かった貯金額に応じて分配する、という方法をとっているそうです。これは、通常の貯金に対する金利ではなく、むしろ、投資信託として分類すべきお金の流れです。つまり、貯金をしただけで自動的に投資信託になるのがイスラム金融の特徴だということもできます。
 金利を想定している通常の日本や欧米の銀行でも、実際にやっていることは、貯金として預かったお金を運用に使い、その金利差で利益を上げ、配当として預金への金利を払っているわけですから、お金の流れとしては非常に似ています。違いは、金利を事前に固定しておくか、事後に実績連動型で決めるか、です。明らかに、事前に決めておいた場合には、未来は予想通りにはならないのですから、歪が蓄積しやすくなっています。私は、銀行のお金の流し方にも、既存の方法とイスラム金融方式の中間的な所に、もうひとつ日本人向けの実現可能な方法があると考えています。
 日本人は安全志向が強いので、預金に対する元本保証は譲れないところだと思います。投資信託では運用が大失敗した場合には元本が保証されないので、そのままでは、日本人の気質に合いません。そこで考えられるのは、銀行の業績に連動する形で金利が変動するようなタイプの定期預金です。例えば、銀行が年間の利益の目標額を事前に想定しておいて、実際の実績が、その目標額に至らなかった場合には、貯金への金利は事前に決めておいた最低限の値となり、目標額を上回った場合には、その額に応じてプラスアルファの金利を付ける、というようにするのです。
 このようにすれば、銀行の金利負担には無理がかからず、また、大きな利益を得た場合には預金者に利益が分配されるので、銀行が儲けすぎることへの批判も避けられます。がんばって利益をあげられる銀行は預金を集めやすくなり、より健全な競争が促進されると期待できます。投資信託イスラム金融では、運用実績をかなりの部分公開する必要がありますが、銀行全体の年間の利益のような形であれば、銀行も内部の会計や運用実績を公開する必要性も特に要求されるわけではありません。
 法律には詳しくないので、このような方法がすぐに実施可能なのか、あるいは、何か、金利に関連する規制があるのかはわかりませんが、銀行自体の運用実績に連動した金利という方法、どこかの銀行で実施してみてほしいと思います。あるいは、もし既にどこかでそのような方法は実施されている、という例をご存知の方がいましたら是非ご連絡下さい。理論家としては、自分が理論的に考えて正しいと思うことを、是非、実験によって確かめて欲しいと期待します。